【徹底解説】罰則と行政制裁(安全保障輸出管理試験(STC Advanced)対策)

安全保障輸出管理実務能力認定試験
今回の記事は次のような方におすすめです。

・安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方(特にSTC Advancedの合格を目指している方に最適)
・輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を確認したい方

今回は安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲である『罰則と行政制裁』について徹底解説します。

外為法では必要な手続きや許可を取らずに貨物や技術を輸出した場合に、罰則と行政制裁が課されることがあります。

貨物の輸出や技術の提供は、輸出者(提供者)に責任があります。

罰則や行政制裁は非常に重いものになっており、個人や企業が大きな損益を被るだけでなく国際平和にも重大な影響を与えることになりますので、しっかり理解しましょう。

早速、解説していきます。

個人に対する罰則

罰則を大きく区分すると、個人に対する罰則と法人に対する罰則があります。

違反者は個人ですので個人に対する罰則が適用されます。

個人に対する罰則に加えて、違反を犯した個人が、法人のために行なった行為である場合には、法人に対しても罰則が課せされます。

法人に対する罰則では、罰則もかなり重いものになっています。

罰則の根拠と内容

外為法69条の6は、刑罰に関する規定です。

第1項(通常兵器関係)7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金、又は併科

第2項(大量破壊兵器関係)10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金、又は併科

併科とは

2つ以上の刑を同時に課すことです。例えば、大量破壊兵器関係で罰則を受けた場合、懲役と罰金を両方受けることもあるということです。

ただし、罰金額については、違反行為の目的物の価格の5倍が、罰金額の上限を超える場合は、目的物価格の5倍以下となります。この規定を「5倍スライド規定」と言います。

5倍スライド規定はちょっとわかりにくいかもしれないので、具体例をあげて説明します。

例えば、違反した貨物の価格が100万円だとします。この貨物が通常兵器関連であれば、100万円の5倍で500万円となり、2000万円以下ですので、罰金額は「2000万円以下が適用」されます。もし違反した貨物の価格が500万円だった場合は、500万円の5倍で2500万円で、2000万円をオーバーしているので、『2500万円以下が適用』されます。

貨物でも技術でも同様の罰則となります。

はかせ
はかせ

罰金額の上限を問う問題がよく出題されるので、懲役の年数と罰金額の上限は、大量破壊兵器と通常兵器でしっかり暗記する必要があります。

通常兵器関連の違反は懲役7年以下、罰金2000万円以下、

大量破壊兵器関連の違反は懲役10年以下、罰金3000万円以下です。

大量破壊兵器関係か、通常兵器関係かの判断

違反の対象となった貨物(技術)が、大量破壊兵器関係と通常兵器関係のいずれに該当するかで、罰則の重さが全く異なります。従って、いずれに該当するかの判断は重要となります。

この判断のための規定としては、輸出令14条(核兵器等の開発等に用いられるおそれが特に大きい貨物)があります。

(第14条)・・・別表第1の1項((5)(6)及び(10)から(12)までを除く。)および同表の2から4までの項の中欄に掲げる貨物(核兵器等を除く。)とする。

別表第1の1項(5、6、10〜12):除外される品目

(5)指向性エネルギー兵器、(6)運動エネルギー兵器、(7)防潜網・魚雷防御網・磁気機雷掃海用の浮揚性電らん、(11)装甲板・軍用ヘルメット・防弾衣、(12)軍用探照灯、その制御装置

別表第1の2〜4項:適用される品目

2項 原子力・核関連資機材、3項 化学兵器、3の2項 生物兵器、4項 ミサイル

この輸出令14条に該当したら、大量破壊兵器関係となり、罰金額が大きくなります。従いまして、14条に規定されている項の番号はしっかり覚えましょう。

輸出令別表第1のリスト規制について確認したい方はこちらも合わせてご覧ください。

罰則の時効について

刑事訴訟法の第250条 第2項に罪の時効についての規定があります。輸出管理の罰則に関連する部分を抜粋しますと、

長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については、7年

長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については、5年

となっております。従って、大量破壊兵器関連の場合は7年、通常兵器関連の場合は5年が、時効の期間となります。

文書の保存期間

時効までの期間と整合が取れるように文書の保存期間が設定されています。

大量破壊兵器関連の文書は少なくとも7年間、通常兵器関連の文書は少なくとも5年間保存としています。

試験でよく出る問題のパターン

試験でよく出るパターンは、

  • 犯した罪が、大量破壊兵器関連か、通常兵器関連かを問う問題
  • 罰則の重さが合っているかを問う問題
  • 5倍スライド規定が適用されるか、適用されるとすればその金額はいくらになるかを問う問題

です。大量破壊兵器関連になる条件、罰則の重さをしっかり押さえておきましょう。

法人に対する罰則

法人に対する罰則の根拠

外為法72条には、違反した個人と併せて、法人も処罰できることを規定しています。

違反した行為が、一個人のために行われるものではなく、法人などのために行われる行為であった場合、法人なども一緒に責任を負う必要があるというものです。

ただし、罰則は、法人には懲役刑や禁固刑を科すことができないので、罰金刑のみです。

参考 懲役刑と禁固刑の違い

懲役刑と禁固刑の違いは刑務作業があるか否かの違いです。禁固刑は刑事施設に入れられるが刑務作業は課せられません。一方、懲役刑は刑事施設に入れられて刑務作業が課せられます。よって懲役の方が重い刑罰です。

法人に対する罰則の内容

2017年から法人への罰則が強化され、個人より法人の刑を重くする法人重科制度が採用されている。法人へは最高で10億円の罰金が課せられます。

(通常兵器関係)7億円以下の罰金

(大量破壊兵器関係)10億円以下の罰金

ただし、罰金額については、5倍スライド規定が適用されます。違反行為の目的物の価格の5倍が、罰金額の上限を超える場合は、目的物価格の5倍以下となります。

行政制裁

行政制裁の根拠と内容

行政制裁は、裁判所の判決により罰則が確定してから、行われるケースが増えています。

外為法48条の1項(貨物輸出)、25条の1項(技術提供)の規定に違反した場合、『3年以内の期間で貨物輸出と技術提供の禁止』となります。

外為法48条の1項(輸出の許可等)

第四十八条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

外為法25条の1項(役務取引)

第二十五条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

貨物輸出の行政制裁の規定は、外為法53条の1項です。

第五十三条 経済産業大臣は、第四十八条第一項の規定による許可を受けないで同項に規定する貨物の輸出をした者に対し、三年以内の期間を限り、輸出を行い、又は特定技術を外国において提供し、若しくは非居住者に提供することを目的とする取引若しくは当該取引に関する特定記録媒体等の輸出若しくは外国において受信されることを目的として行う電気通信による特定技術を内容とする情報の送信を行うことを禁止することができる

技術提供の行政制裁の規定は、外為法25条の2の第1項です。

第二十五条の二 経済産業大臣は、前条第一項の規定による許可を受けないで同項に規定する取引を行つた者に対し、三年以内の期間を限り、貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下この項及び次項において「貨物設計等技術」という。)を外国において提供し、若しくは非居住者に提供することを目的とする取引若しくは当該取引に関する貨物設計等技術を内容とする情報が記載され、若しくは記録された文書、図画若しくは記録媒体の輸出(同項及び第七十条第一項第十九号において「技術記録媒体等輸出」という。)若しくは外国において受信されることを目的として行う電気通信による貨物設計等技術を内容とする情報の送信(次項及び同号において「国外技術送信」という。)を行い、又は特定技術に係る特定の種類の貨物の輸出を行うことを禁止することができる

条文では、「禁止することができる」という書き振りになっており、行政は必ず制裁をかさなければならないとはなっていません。行政制裁は、輸出者の様態や反省等を考慮して、経済産業大臣に裁量が与えられています。

また、2017年10月から行政制裁逃れに対する制度が設けられました。

行政制裁逃れとは、行政制裁を受けた企業の役員などが、行政制裁を受けた業務と同じ業務を営む別会社の役員等に就任することや、個人業として行政制裁を受けた業務と同じ業務を新たに開始することです。このような行政制裁逃れが禁止されました。

行政制裁のその他のデメリット

  • 違反した個人、法人とも国際的な名誉の失墜につながる
  • 企業や大学等の経営に大きなダメージ

今回は『罰則と行政制裁』について解説しました。

個人だけでなく法人にも罰則が課せられており、法人への罰則は数年前に重罰化されています。まさに組織として輸出管理することの重要性が増しているということでしょう。罰則に加えて行政制裁が加えられるとともにその他のデメリットも多いことから、輸出管理のミスは企業にとって大きなダメージとなることは間違いないと思います。

なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は

>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)

をご覧ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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