今回の記事は次のような方におすすめです。 ・安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方(特にSTC Advancedの合格を目指している方に最適) ・輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を確認したい方
今回は安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲である『技術提供の特例』について解説します。
技術の提供(役務取引)では、リスト規制に該当する技術の提供であっても許可なしで提供が可能なケースがいくつかあります。
役務取引という単語が出てきますので、役務取引の定義を記述しておきます。
役務取引とは『許可を要する特定技術を特定国において提供することを目的とする取引若しくは特定国の非居住者に提供することを目的とする取引』のことです。
やや内容が複雑ですが、しっかり理解しましょう。
なお、今回の内容は技術提供の規制を理解した上で読んで頂いた方が理解がスムーズだと思いますので、合せてご確認ください。
それでは早速解説していきます。
許可が必要ない技術提供の法令上の根拠
許可が必要ない技術の提供の法令上の根拠は、外為令と貿易外省令にあります。
外為令で特に支障がないと認めて指定したものは許可を受けずに提供できると大枠を規定しており、貿易外省令では許可なしで技術の提供が可能な具体的なケースが多数規定されています。
それぞれの条文を見てみましょう。
外為令第17条第5項 5 第一項又は第三項に規定する取引のうち経済産業大臣が当該取引の当事者、内容その他からみて法の目的を達成するため特に支障がないと認めて指定したものについては、法第二十五条第一項又は第四項の規定による経済産業大臣の許可を受けないで当該取引をすることができる。
貿易外省令(貿易関係貿易外取引等に関する省令)第9条第2項 2 令第十七条第五項に規定する経済産業大臣が指定する取引は、次の各号のいずれかに該当する取引とする。
貿易外省令の第9条の第2項に次の各号のいずれかに該当する取引とするとあります。次の各号については1〜16号まであり、多数のケースが規定されています。
それぞれのケースの条文は省略しますので見たい方は、条文を確認してください。
許可が必要ない技術の提供について(代表的なケースを解説)
今回の解説においては、実務でよく使用するもの、試験に問われそうなものをピックアップして解説します。
公知の技術の提供、技術を公知とするための技術の提供

公知の技術の提供、技術を公知とするための技術の提供は許可が必要ありません。
『公知』というのはみんな知っている(不特定多数の者が入手・閲覧可能)ということです。
新聞、書籍、ウェブ上に公開されているような公知の技術は、みんないつでも知ることができる技術なので、規制しても意味がないことから許可が必要ない技術の提供となっています。
次のような技術が該当します。
- 新聞、書籍、雑誌、カタログ
- ウェブ上のファイル
- 学会誌、公開特許情報、公開シンポジウムの議事録
- 工場見学コース、講演会、展示会で提供される技術
- ソースコードが公開されているプログラム
- 発表用原稿や展示会での配布資料
ポイントは、不特定多数の者が入手・閲覧可能というところです。
上にあげたものでも不特定多数の者に公開されていない技術は許可が必要なことがありますので注意が必要です。
基礎科学分野の研究活動における技術の提供
基礎科学分野の研究活動における技術の提供は許可が必要ありませんが、ここでは基礎科学分野の研究活動の定義がポイントとなります。
基礎科学分野の研究活動とは『自然科学分野における現象に関する原理の究明を主目的とした研究活動』『特定の製品の設計や製造を目的としないもの』となっています。
大学の研究などでも原理原則の追求を目的とした内容の技術は提供しても良いですが、装置や材料の作製に関わるような内容の技術は許可が必要となる可能性があります。
一概に研究といっても研究内容によっては許可が必要な場合もありますので注意が必要です。
工業所有権の出願・登録のための必要最小限の技術の提供
工業所有権の出願・登録のための必要最小限の技術の提供は許可が必要ありません。
工業所有権という言葉にあまり馴染みがないと思いますが、工業所有権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの総称のことです。
それらの出願・登録のために必要な最小限の技術の提供ということであれば理解しやすいと思います。
特許権などは、発明、発見、創作したものを登録して権利を取得するものですので、実務上、特例を使用することも多いと思います。
あくまで、出願登録のために必要最小限の技術の提供となっていますので、出願と登録に求められている以上の技術の提供については許可になる可能性があります。
貨物の輸出に付随した特定の条件を満たした使用に係る技術の提供

輸出された貨物を使うために一緒に提供される『据付・インストール・操作・保守・修理のための必要最小限の技術』は許可が不要です。
説明書やマニュアルが該当します。特例の対象となる人は、買主、荷受人、需要者に限定されています。
なお、こちらには除外されているものがあります。
- プログラム
- 使用技術告示第1号の技術
- 貿易外省令第9条第2項第12号イからハ
です。下記が貿易外省令第9条第2項第12号イからハになります。
イ 当該貨物の性能、特性が当初提供したものよりも向上するもの ロ 修理技術であって、その内容が当該貨物の設計、製造技術と同等のもの ハ 令別表中欄に掲げる技術であって、貨物の設計、製造に必要な技術が含まれるもの
プログラムの提供に付随した特定の条件を満たした使用に係る技術の提供
貨物に付随した技術の提供と内容は類似しています。プログラムに付随した技術の提供に関する特例です。
『プログラムのインストール、操作、保守又は修理のための必要最小限の技術の提供』は許可なしで提供が可能です。
なお、こちらには除外されているものがあります。
- プログラム
- 使用技術告示第1号の技術
- 貿易外省令第9条第2項第13号イからハ
です。下記が貿易外省令第9条第2項第13号イからハになります。
イ 当該プログラムの性能、特性が当初提供したものよりも向上するもの ロ 修理技術であって、その内容が当該プログラムの設計、製造技術と同等のもの ハ 令別表中欄に掲げる技術であって、プログラムの設計、製造に必要な技術が含まれるもの
特定の条件を満たしたプログラムの提供
プログラムの提供における以下のケースは許可が不要になります。
- 市販されているプログラムや無償のプログラムで販売店などの技術支援が不要であるように設計されているもの
- リスト規制対象の貨物と同時に提供されるプログラムで、その貨物の使用するために特別に作られ、ソースコードが提供されないもの
- 過去に許可を受けて提供したプログラムのバグ修正のためのもの
- 過去に輸出した貨物で日本で修理して再輸出する貨物と同時に提供されるプログラムで、役務取引許可を受けて提供したものと同一のもの
- 外為令別表の2、4〜15項のプログラム(オブジェクトコード)で、貨物の輸出に付随する据付、操作、保守、修理のための必要最小限のもの
ソースコードは、人間が読むことができるプログラミング言語を使って書いた命令のこと。一方、オブジェクトコードは機械語(人間が読めないパソコンが読めるプログラミング言語)に変換後の命令のこと。
国際標準の策定のために必要な暗号メカニズム、暗号アルゴリズム、これらの参照コードの提供
暗号化規格のような国際標準の策定はデータの改ざんや漏洩を防ぐためにとても大切です。そしてそのような規格は日々見直され進化しています。
そのような理由から、暗号メカニズム、暗号アルゴリズム、これらの参照コードの見直し等に関連する技術の提供は許可が不要です。
今回は『技術提供の特例』について解説しました。やや複雑ですが、試験でもよく問われるので、しっかり理解しましょう。
なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は
>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)
をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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