今回の記事は次のような方におすすめです。 ・安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方(特にSTC Advancedの合格を目指している方に最適) ・輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を確認したい方
今回は安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲である『輸出者等遵守基準と輸出管理内部規定』について徹底解説します。
今回解説する内容は、輸出において守らなければならないこと(輸出者等遵守基準)と、輸出者等遵守基準を元に企業などが組織内で作る輸出管理内部規定についてです。
輸出者等遵守基準は法令で定められているため輸出者は遵守しなければなりませんが、輸出管理内部規定は任意で企業が作成するものです。任意ですが作成すると包括許可が取得できる等のメリットがあります。
なお、今回の輸出者等遵守基準と輸出管理内部規定については、包括許可に関わる内容ですので、包括許可関連の記事を合わせてご覧いただくとより一層理解が深まります。
それでは早速、解説に入ります。
輸出者等遵守基準
外為法上の根拠
外為法の第六章の三(第55条の10〜12)に輸出者等遵守基準についての記載があります。下記が外為法の条文です。黄色でマーキングした部分だけ読めばある程度意味は取れると思います。
(輸出者等遵守基準)
第五十五条の十 経済産業大臣は、経済産業省令で、第二十五条第一項に規定する取引又は第四十八条第一項に規定する輸出(以下「輸出等」という。)を業として行う者(以下「輸出者等」という。)が輸出等を行うに当たつて遵守すべき基準(以下「輸出者等遵守基準」という。)を定めなければならない。
2 輸出者等遵守基準は、第二十五条第一項に規定する取引によつて提供しようとする特定技術又は第四十八条第一項の特定の地域を仕向地として輸出をしようとする同項の特定の種類の貨物が特定重要貨物等に該当するかどうかの確認に関する事項その他当該取引又は輸出を行うに当たつて遵守すべき事項について定めるものとする。
3 前項の「特定重要貨物等」とは、特定技術又は第四十八条第一項の特定の種類の貨物であつて、その特定国における提供若しくは特定国の非居住者への提供又はその同項の特定の地域を仕向地とする輸出が国際的な平和及び安全の維持を特に妨げることとなると認められるものとして経済産業省令で定めるものをいう。
4 輸出者等は、輸出者等遵守基準に従い、輸出等を行わなければならない。
(指導及び助言)
第五十五条の十一 経済産業大臣は、輸出等が適正に行われることを確保するため必要があると認めるときは、輸出者等に対し、輸出者等遵守基準に従つた輸出等が行われるよう必要な指導及び助言をすることができる。
(勧告及び命令)
第五十五条の十二 経済産業大臣は、前条の規定による指導又は助言をした場合において、輸出者等がなお輸出者等遵守基準に違反していると認めるときは、当該輸出者等に対し、輸出者等遵守基準を遵守すべき旨の勧告をすることができる。
2 経済産業大臣は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わなかつたときは、当該勧告を受けた者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
特定重要貨物等とは、「貨物は、輸出令別表第1の1〜15項の貨物」「技術は、外為令別表の1〜15項の中欄に掲げる技術」となります。すなわち、リスト規制品と言われるものになります。リスト規制品というのは、輸出されることで国際的な平和と安全の維持を妨げる可能性が高い品目です。
要約すると、
- 経産大臣は、輸出者が守るべき事項を定めなければならない。この輸出者が守るべき事項というのを、『輸出者等遵守事項』と言います。
- 『輸出者等遵守事項』には、特定重要貨物等(特定技術と特定貨物)に該当するかどうか、輸出に当たって守るべきことが書いてある。
- 輸出者は、『輸出者等遵守事項』を守らないといけない。
- 経産大臣は、輸出者がちゃんと守るように指導します。
といったシンプルな内容となっています。
この輸出者等遵守事項は、貨物や技術を輸出しようとする者全てが守らなければならない事項です。
輸出者等遵守基準を定める省令
外為法第55条の10で、『経済産業大臣は、経済産業省令で、・・・が輸出等を行うに当たつて遵守すべき基準(以下「輸出者等遵守基準」という。)を定めなければならない。』となっています。経済産業省令で輸出者等遵守基準は詳しく規定されているということです。
この経済産業省令が『輸出者等遵守基準を定める省令』です。輸出者等遵守基準を定める省令は全部で4条からなる短い省令です。早速中身を見てみましょう。1条と2条が重要ですので要約を下にまとめました。
- (第1条)輸出しようとする貨物や技術が特定重要貨物等に該当するかどうかを確認する責任者『該非確認責任者』を選任すること。そして、輸出の業務をする人にちゃんと指導しましょう。また特定重要貨物等の輸出者に限っては、さらに9個のことを守ること。
- (第2条)特定重要貨物等輸出者は、同じ人を該非確認責任者と統括責任者(※)に選ぶことができる。
※特定重要貨物等の輸出者は、輸出管理業務を統括する統括責任者を選任する必要があります。
1 組織の代表者を輸出管理の責任者とすること。
2 組織内の輸出管理体制を定めること。
3 該非確認に係る手続を定めること。
4 リスト規制品の輸出等に当たり用途確認、需要者確認を行う 手続を定め、手続に従って確認を行うこと。
5 出荷時に、該非を確認した貨物等と一致しているか確認を行 うこと。
6 輸出管理の監査手続を定め、実施するよう努めること。
7 輸出管理の責任者及び従事者に研修を行うよう努めること。
8 輸出等関連文書を適切な期間保存するよう努めること。
9 法令違反したとき及び法令違反したおそれがあるときは、速やかに経済産業大臣に報告し、 その再発防止のために必要な措 置を講ずること
このように輸出者等遵守基準は、二段構えの構造になっています。すなわち、
外為法は、全ての輸出者が守らなければならない事項を規定して、さらにその中でも特定重要貨物等に関しては、軍事利用される可能性が高いので、より厳しく規制するために、輸出者等遵守基準を定める省令により追加の遵守事項が規定されています。
輸出管理内部規定(CP)
輸出管理内部規定(CP)の必要性
輸出者等遵守基準について解説してきましたが、輸出者等遵守基準は、政府が定めたもので、輸出者が守らなければならない事項になります。
この輸出者等遵守基準をしっかり守って企業等は輸出を実施することになりますが、企業の中で輸出の手続きなどを確実に規制するするためにあったほうが良いのが『輸出管理内部規定(CP)』になります。CPはコンプライアンス・プログラムの略で法令遵守規定という意味です。
輸出管理内部規定は、企業等の輸出者が自ら定める規定になっており、自主管理のために『任意』で作るものです。作成は義務化されていないので、作成しなくても輸出はできます。
CPを作成することのメリットは下の通りです。
- 組織内で輸出のための一連の手続きを規定できることで、関係法令を遵守して違反を未然防止できる。
- CPを経済産業省に届け出て、適切と評価された場合は、CP受理票というものが発行され、包括許可が取得可能になる。包括許可とは、輸出手続きを簡略化できる仕組みです。
輸出管理のミスは、国際的な平和と安全の維持を妨げるだけでなく、企業の信頼の喪失につながるとともに、重い罰則や行政指導を受ける可能性があることから、このような様々なリスクを回避するためにも、輸出管理内部規定(CP)は有効なツールと言えます。

輸出管理内部規制は作成すること自体に時間と労力を要するが、輸出許可手続きの簡略化と時間短縮が可能な包括許可が取得可能になることが大きなメリットです。
輸出管理内部規定(CP)に含めなければならない事項
輸出管理内部規定(CP)に含めなければならない事項は、『輸出管理内部規定の届出等について』という通達の別紙第1『外為法等遵守事項』で規定されています。
内容については、輸出者等遵守基準とほぼ同じです。なぜなら、輸出者として遵守しないといけない事項を輸出管理内部規定に記載しなければならないからです。ただし、輸出者等遵守基準と外為法等遵守事項に記載されているCPに含めなければならない事項には、若干の異なる点があります。異なる点としては下の通りです。
- 子会社及び関連会社に対し、適切な指導を行うこと。
- 監査、研修、文書保存の規定が義務規定であること。(輸出者等遵守基準では努力規定)
外為法等遵守事項の方が、細かく、厳しい規定になるので、外為法等遵守事項をしっかり守っておけば、自ずと輸出者等遵守基準は守られるということになります。
今回は、輸出者等遵守基準と輸出管理内部規定について解説しました。
これらは、法律、省令、通達が多く発出されているため、ごちゃごちゃしやすい分野ですが、しっかり整理できれば非常に単純な構造になっています。実務で使用する可能性が高い重要な分野ですのでしっかり内容を理解しましょう。
なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は
>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)
をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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