今回は『アメリカの再輸出規制』についてです。アメリカの輸出規制の話ですが、日本から輸出する場合にも大きく影響するのでしっかり内容を理解しましょう。
それでは早速解説していきます。
アメリカの輸出規制を理解する必要がある理由
日本からの輸出は外為法に基づく輸出規制をしっかり抑えておけば問題ないと思いがちですが、実はそれでは不十分です。
日本の輸出者はアメリカの輸出規制の仕組みと内容をしっかり理解する必要があります。
なぜかと言いますと、アメリカは、アメリカの国内法を外国にも適用する『域外規制』を行っているからです。
『域外規制』の中でも輸出管理において代表的なものが『再輸出規制』です。
『再輸出規制』というのは、
例えば、アメリカから、日本に米国製パソコンを輸入します。そのパソコンを日本から外国に輸出しようとするとき、外為法に加えて、アメリカの輸出管理の規制が適用され、アメリカの輸出許可が必要な場合があります。
アメリカから日本に輸出したものを、日本からさらに外国に輸出することになるので、『再』輸出ということになります。
万が一、日本の企業がアメリカの域外規制に違反したならば、罰金、禁錮、取引禁止、アメリカ政府調達からの除外などが課せられ、アメリカと全く取引ができなくなる他、アメリカ製品を入手できなくなるなど、かなりの痛手を被ることになります。
従って、輸出者は、日本国内の輸出規制である外為法を遵守するとともに、アメリカの輸出管理の法律や規則も理解し遵守する必要があります。
アメリカの輸出管理の法的枠組み
アメリカの輸出管理の法律が、再輸出の時に適用されることを説明しましたが、アメリカの輸出管理の法律・規則とは一体どうなっているかが気になるところです。
下の表にアメリカの輸出管理の法律の主なものをまとめました。貨物や技術の種類に応じて適用される法律・規則が異なっています。
法律 | 武器輸出管理法 (AECA : Arms Export Control Act) | 輸出管理改革法 (ECRA : Export Control Reform Act) | 原子力法 (AEA) |
規則 | 国際武器取引規則 (ITAR : International Traffic in Arms Regulations) | 輸出管理規則 (EAR : Export Administration Regulations) | 核関連輸入規則 原子力関連対外活動規則 (AFA EA) 核拡散防止法(NNPA) |
規制の対象 | 機微性の高い武器品目・技術 | 機微性の低い武器品目・技術 デュアルユース品目・技術 | 核原子力関連品目・技術 |
所管 | 国務省 | 商務省 | エネルギー省 原子力規制委員会 |
安全保障輸出管理実務能力認定試験で問われるのは、主に輸出管理規則(EAR)ですので、EARを主に説明していきます。
EARの対象となる規制品目は機微性の低い武器品目とデュアルユース品目になります。
デュアルユースとは、民生にも武器にも使えるものを言います。
再輸出規制の対象範囲
再輸出規制の対象範囲は大きく3つに区分できます。
『米国原産品目』、『米国原産品目を組込んだ非米国製品目』、『直接製品』の3つです。それぞれについて解説します。
米国原産品目
アメリカから輸出された品目のことを米国原産品目と言います。アメリカから輸出された品目であれば、どこにあろうと再輸出規制の対象になります。
ただし品目の種類によってはEARのカバーする範囲外になることがあります。その場合は、他の法律(ITARなど)で規制されることになります。
米国原産品目を組込んだ非米国製品目
米国原産品目(アメリカから輸出された品目)が組み込まれた非アメリカ製の品目のことです。ただし、米国原産品目の組込比率が特定値以下の場合はEARの規制対象になりません。この特定値を、デミニミス値と言います。
仕向地がテロ支援国(イラン、北朝鮮、シリア、スーダン)、アメリカ独自の制裁国(キューバ)の場合は、デミニミス値は10%、それ以外の国が仕向地の場合は25%です。
直接製品
直接製品とは、確約書を提出して輸入した米国原産の技術・ソフトウェアを使い、直接的に製造した国家安全保障規制される非米国製品目のことです。
アメリカへの輸出申請が必要か否かを判断するための手順
輸出したい貨物などが、アメリカへの輸出申請が必要かどうかを判断するためには、多くのことを知る必要がありますが、個別に理解していっても、全体像を掴むことができず、しっかりと理解できないため、実際の手順にしたがって順番に説明していきたいと思います。
下の図がアメリカへの許可申請が必要か否かを判断するためのフローチャートです。

リスト規制品目かどうかの判断
一番初めに判断すべき事項として、輸出したい貨物等が米国が指定するリスト規制品目か否かを判断する必要があります。
アメリカの輸出管理規則(EAR)で輸出規制する品目をリストアップしています。ここにリストアップされている品目をリスト規制品目と言います。リスト規制品目は、EARのPart 774のCCL(規制品目リスト)に掲載されています。CCLは、Commerce Control Listの略です。
リスト規制品目か否かを判断するためにはECCNの割り当てを確認する必要があります。ECCNは全てのリスト規制品目毎に割り当てられています。
ECCNとは、Export Control Classification Numberの略であり、日本語では『規制品目分類番号』です。その名の通り、規制された品目に割り当てられた分類番号になっています。ECCNは5桁の英数字で表記されます。
ECCNの5桁の英数記号はそれぞれの桁ごとに意味があります。それぞれの桁の意味するところを下に記述します。
- 1桁目 分類(0〜9までの数字):0は核関連、1は材料、2は材料加工、3はエレクトロニクス、など
- 2桁目 形態(A〜Eのアルファベット):Aは装置、Bは製造装置、Cは材料、Dはソフトウェア、Eは技術
- 3桁目 規制理由(数字):0は国家安全保障規則、1はミサイル拡散防止規則、2は核拡散防止規則、など
- 4桁目 独自規制の識別(数字):9はアメリカ独自規制、9以外は国際レジームなど
- 5桁目 一連番号(数字):品目ごとの一連番号
ECCNの確認が取れたら、EARのCCLで『規制理由』と『規制レベル』を確認します。
この二つの項目は次に説明するCCCによる仕向地ごとの輸出許可の必要の有無を確認するために必要になります。
仕向地は許可が必要かの判断
リスト規制品目であった場合は、次は仕向地(貨物等を送る先)が許可が必要な地域か否かを判断する必要があります。
この判断については、CCCを使って確認します。
CCCは規制理由と規制レベルと国が表になったものであり、輸出許可が必要か否かが仕向地ごとに表記されています。
CCCとは、Commerce Country Chartの略で、カントリー・チャートと言われるものです。CCCはEARのPart 738に掲載されており、仕向地が輸出許可が必要な地域がどうかが判定できる表になっています。
用途規制、需要者規制、禁輸国規制の該当はあるかの判断
EARのPart 744, 746などに、用途規制(エンドユース規制)、需要者規制(エンドユーザー規制)、禁輸国規制がそれぞれ細かく記載されているので、これらの規制に該当するか否かを確認する必要があります。例えば、仕向先が禁輸国に指定されていたならば、許可が必要となります。
用途規制、需要者規制、禁輸国規制については、国際情勢の変化、対米関係などで頻繁に変わるので、実務では漏れなくチェックすることが必要です。
許可例外の適用は可能かの判断
EARのPart 774のCCLに許可例外の記載があります。許可例外は英語で言うと、License Exceptionです。許可例外の種類はいくつかあり、リスト規制品目ごとに使用できる許可例外が記載されています。下のリストが許可例外の種類です。
- LVS:少額輸出のことで、CCLで規定する限度額を超えない範囲で、B国群向けの輸出に適用可能
- GBS:B国群向けの指定された貨物の輸出に適用可能
- TSR:B国群向けの指定された技術・ソフトウェアの輸出に適用可能
- TMP:一時的な輸出・再輸出などに適用可能
- TSU:運転用技術・ソフトウェア、販売促進用技術、ソフトウェアの不具合修正などの輸出・再輸出に適用可能
- RPL:輸出・再輸出された装置などの1対1の交換のための輸出・再輸出に適用可能
- APR:再輸出のみに認められる許可例外で、WA参加国や香港からの再輸出などがある。
上の説明でB国群向けのみ適用可能との記述があるように、許可例外を適用の可否を国のグループ(国群)によって行っています。下のリストが国群とその説明です。C国群はありません。
- A国群:国際レジーム参加国など。A国群の中にもさらに6つの区分がある。
- B国群:主に旧自由圏
- D国群:制約国、懸念国、禁輸国など。D国群の中にもさらに5つの区分がある。
- E国群:テロ支援国(イラン、シリア、スーダン、北朝鮮)、アメリカ独自制裁国(キューバ)
今回は、アメリカの再輸出規制ついて解説しました。輸出許可の要否には、品目、仕向地、用途、需要者など様々な観点があり複雑ですが、実務では重要な分野になるのでしっかり内容を理解しましょう。
なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は
>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)
をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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