今回の記事は次のような方におすすめです。 ・安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方(特にSTC Advancedの合格を目指している方に最適) ・輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を確認したい方
今回は安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲である『少額特例』について解説します。
貨物の輸出規制では、リスト規制に該当する貨物であってもリスト規制に該当しないものとして扱うことができる特例がいくつかあります。
その特例のうち、実務上よく使用されるのが少額特例と無償特例と言われています。今回はその一つである『少額特例』について解説します。
実務上頻繁に使用するという特性から、試験でも問われやすいところとなっておりますので、しっかり理解しましょう。
少額特例というのは、名前の通り、少額な貨物に対する特例です。
輸出する貨物の価格、品目、仕向先などの条件で少額特例が適用できるできないが決まってきます。そのあたりの条件をしっかり抑えることがポイントとなります。
なお、今回の内容は貨物の輸出規制を理解した上で読んで頂いた方が理解がスムーズだと思いますので、合せてご確認ください。
それでは早速、解説に入ります。
少額特例の法令上の根拠
まずは法令上の根拠についてです。
根拠は、輸出令(輸出貿易管理令)第4条第1項第4号になります。
下記が該当する条文になります。
(特例) 第四条 法第四十八条第一項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。ただし、別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物については、この限りでない。 四 別表第一の五から一三まで又は一五の項の中欄に掲げる貨物であつて、総価額が百万円(別表第三の三に掲げる貨物にあつては、五万円)以下のもの(外国向け仮陸揚げ貨物を除く。)を別表第四に掲げる地域以外の地域を仕向地として輸出しようとするとき(別表第三に掲げる地域以外の地域を仕向地として輸出しようとする場合にあつては、前号のイ、ロ及びニのいずれの場合にも(別表第三の二に掲げる地域(イラク及び北朝鮮を除く。)を仕向地として輸出しようとする場合にあつては、同号のイからニまでのいずれの場合にも)該当しないときに限る。)。
黄色のマーキング部分が少額特例の条件になります。条件の詳細はこのあと詳しく解説します。
『法第四十八条第一項の規定』というのが冒頭に出てきますが、これは特定の貨物を特定の地域に輸出する場合は輸出の許可が必要という規定です。
また、『別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物』というのは、武器を指しています。
少額特例とは
少額特例とは、リスト規制の対象の貨物の中で、価格、品目、仕向先の特定の条件を満たした貨物は輸出許可なしで輸出することができる特例です。
経済産業大臣に輸出の許可を取る必要はなく、輸出時は税関で少額特例を使用して輸出する旨と価格を証明する書類を提示することで輸出することになります。
少額特例の適用範囲

少額特例の適用範囲についてです。一番のポイントなるところですのでしっかり理解しましょう。適用範囲を理解しやすいように上の表を作成しました。この表に基づいて説明していきます。
少額特例が適用可能な『品目』と『価格』
少額特例が適用可能な品目についてです。
品目については輸出令別表第一の1〜16項で適用の可否が分かれます。
まず1項の武器ですが、根拠条文の冒頭にあるように、1項品目については少額特例の適用から除外されています。武器ですから貨物の値段が少額であっても危険性が高いという理由だと思います。
次に2〜4項です。これらについては大量破壊兵器関連の貨物になります。2項が核兵器・原子力関連、3項が化学兵器・生物兵器関連、4項がミサイル関連になっています。これらも1項同様に、少額でも危険性が高いため、少額特例の適用が認められていません。
5〜13項です。これらはさまざまな分野の先端技術を使用した貨物を規制した項で武器などに使用されるリスクがある貨物になります。
こちらについては経済産業大臣告示で指定されている貨物は総価格の上限が5万円まで、告示された貨物以外は上限100万円まで少額特例の適用が認められています。貨物が国際的な平和の維持に与える影響などを加味して軽重をつけています。告示された貨物は機微性が高い貨物といえます。
14項はその他の品目で主に軍用品であり、少額特例の適用はできません。
15項は機微品目となっているため、上限5万円まで少額特例の適用が可能になっています。
最後に16項のキャッチオール規制ですが、こちらは少額特例の適用はできません。

少額特例が適用可能な品目は、武器や大量破壊兵器に直結するような品目は少額特例の適用ができないようになっているようですね。
また適用できる価格の上限も品目によって5万円、100万円と軽重をつけているようです。
少額特例が適用可能な『地域』
少額特例が適用可能な仕向先地域は、別表第四に掲げる地域以外の地域となっています。
別表第四に掲げる地域は輸出禁止地域で、イラン、イラク、北朝鮮の3カ国のみです。これらの地域向けに輸出する場合は、少額特例は適用できないことになっています。
少額特例の適用範囲内でも少額特例を適用できないケース
少額特例の適用範囲について表を用いて解説してきましたが、適用範囲であっても、適用できないケースがあります。
下のケースが適用できないケースです。
輸出令別表第3以外の地域向けに輸出する場合で ・大量破壊兵器等の開発・製造等に用いられるおそれがある場合 又は ・インフォーム通知を受けた場合
輸出令別表第3『以外』の地域となっています。
別表第3の地域はホワイト国になります。ホワイト国とは国際レジームに参加しており国内規制もしっかりしているグループです。今回のケースはホワイト国以外なので、ややリスクがある地域向けに輸出する場合ということになります。
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
次に『大量破壊兵器等の開発・製造等に用いられるおそれがある場合』は少額特例が適用できません。
よって輸出する前に輸出令別表第3以外の地域に輸出しようとする場合は、輸出者自身が輸出先に用途を確実に確認する必要がありますので注意が必要です。
最後に『インフォーム通知を受けた場合』についてです。
インフォーム通知というのは輸出者自身が大量破壊兵器等への流用の可能性を判断するというものではなく、経済産業省から指摘されるものです。
経済産業省から流用のおそれがあり輸出許可を取りなさいと通知(インフォーム通知)があった場合は、少額特例を適用することができません。
貨物の輸出や技術の提供について、大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵に用いられるおそれがある又は通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがあると経済産業省が判断した場合に、経済産業大臣から、大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある又は通常兵器の開発等に用いられるおそれがあるものとして許可申請をすべき旨、文書にて通知されるものです。(インフォーム通知)
通知を受けた事業者は、当該貨物を輸出又は技術を提供する場合には、事前に申請が必要となります。経済産業大臣の許可がない限り、当該貨物の輸出や技術の提供はできません。
まとめて輸出する場合の少額特例の適用について
少額特例が適用される価格については、『総価格』という表現が使われています。
つまり、個々の価格ではなく、輸出ごとの価格の総額という意味になります。
そして、総価格の計算で足し算できるのは、輸出令別表第一の各項のカッコごとになります。
例えば、5項(1)の貨物がいくつかある場合は、それらは足し算して総価格で判断しなければなりません。

一回の輸出単位の中で、多数の貨物がある場合は、各校のかっこごとに区分して総価格を計算して判断するということは、一回の輸出の中でも少額特例が適用できる貨物とそうでない貨物が混ざるようなこともありそうですね。
今回は『少額特例』について解説しました。実務上でもよく使用される特例であり、試験でもよく問われるので、しっかり理解しましょう。
なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は
>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)
をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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