今回の記事は次のような方におすすめです。 ・安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方(特にSTC Advancedの合格を目指している方に最適) ・輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を確認したい方
今回は安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲である『キャッチオール規制』について解説します。
輸出規制では貨物や技術のスペック(性能)で規制をするリスト規制のほかに、キャッチオール規制があります。
キャッチオール規制は貨物や技術の用途、行き先である需要者に着目した規制でありまして、用途や需要者によって輸出許可の有無が決まってきます。
輸出者自身で用途や需要者を確認して輸出許可申請の要否を判断しなければなりません。
キャッチオール規制の輸出許可申請の要否の判断はやや複雑ですが、重要な分野ですので試験でよく問われる分野となっています。しっかり理解しておきましょう。
それでは早速、解説に入ります。
キャッチオール規制とは(何のための規制なのか、必要性など)

キャッチオール規制は、補完的輸出規制とも言われます。
過去にリスト規制に該当しないような汎用の貨物や技術によって大量破壊兵器や通常兵器が作られてしまったというリスト規制の欠点を補うためにできた規制です。
最近では汎用品の技術レベルも相当高くなっているので軍事転用も簡単になってきているでしょうし、ドローンのような民生品でも戦争で使用されるような時代ですから尚更キャッチオール規制は重要になってきます。
リスト規制は主として貨物や技術のスペック(性能)に焦点を当てた規制です。
一方でキャッチオール規制は用途や需要者に焦点を当てた規制になっています。ですので、何に使用するのか、誰が使うのかがとても大切になってきます。
キャッチオール規制の該非判定の手順
これからキャッチオール規制に該当するかしないかを判断するために必要な様々なことを覚える必要がありますが、キャッチオール規制に該当するか否か判断すべき事項が多く、複雑です。
私が一番理解しやすいと感じたのは、経済産業省の公開している『補完的輸出規制(キャッチオール規制等)輸出許可申請に係る手続きフロー図』です。今回はこれを元に解説していきたいと思います。フロー図を簡略化したものを下に示します。

上のフロー図からわかるように結構複雑で判断すべき事項がたくさんあります。そして最終的に、通常兵器キャッチオール、大量破壊兵器キャッチオール、許可不要に行き着くことになります。
キャッチオール規制は、大量破壊兵器キャッチオールと通常兵器キャッチオールの2種類があります。
インフォーム要件
まずはフローにほとんど関係しないインフォーム要件(フロー図の黄色部分)について解説します。
インフォーム要件であれば、輸出者は特に判断することもなく、通常兵器キャッチオールまたは大量破壊兵器キャッチオール確定になります。
インフォーム要件は、大量破壊兵器や通常兵器に用いられるおそれがあると判断され経済産業省から許可申請すべき旨を文書にて通知(インフォーム通知)を受けることです。
この場合は、有無を言わさず輸出許可が必要になります。
経済産業省から許可を取りなさいと通知があるので輸出者は許可の有無を判断することはなく輸出許可申請をすることになります。
貨物の輸出や技術の提供について、大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵に用いられるおそれがある又は通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがあると経済産業省が判断した場合に、経済産業大臣から、大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある又は通常兵器の開発等に用いられるおそれがあるものとして許可申請をすべき旨、文書にて通知されるものです。(インフォーム通知)
通知を受けた事業者は、当該貨物を輸出又は技術を提供する場合には、事前に申請が必要となります。経済産業大臣の許可がない限り、当該貨物の輸出や技術の提供はできません。
リスト規制の該当貨物・技術か
それではフロー図に従って上から順番に解説をしていきます。
最初に行うことですが、輸出又は提供しようとする貨物・技術がリスト規制に該当するか否かを確認します。
リスト規制の貨物は輸出令別表第1の1〜15項、リスト規制の技術は外為令別表の1〜15項で規定されています。
キャッチオール規制の該当貨物・技術か
キャッチオール規制の対象貨物
キャッチオール規制の対象貨物は、輸出令別表第1の16項が根拠になっています。
下の根拠条文にある通り、幅広い貨物が規制の対象になっています。
輸出令別表第1の16項 関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)別表第二五類から第四〇類まで、第五四類から第五九類まで、第六三類、第六八類から第九三類まで又は第九五類に該当する貨物(一から一五までの項の中欄に掲げるものを除く。) 詳細な品目を確認したい方は関税定率法をご覧ください。リンクはこちら
キャッチオール規制の対象技術
キャッチオール規制の対象となる技術は、外為令別表の16項に規定されています。
外為令別表 16項 関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)別表第二五類から第四〇類まで、第五四類から第五九類まで、第六三類、第六八類から第九三類まで又は第九五類に該当する貨物の設計、製造又は使用に係る技術であつて、経済産業省令で定めるもの(一から一五までの項の中欄に掲げるものを除く。) 詳細な品目を確認したい方は関税定率法をご覧ください。リンクはこちら
外為令別表16項に規定がある貨物の品目を見てみると、貨物のキャッチオール規制の該当品目と同じであることがわかります。
よってキャッチオール規制の対象となる技術は、キャッチオール規制の対象となる貨物の関連技術(設計、製造又は使用に係る技術)となります。
仕向先は輸出令別表第3の地域か

キャッチオール規制の対象となる地域は、輸出令別表第3の地域を除く全地域です。
輸出令別表第3の地域は、Aグループと呼ばれており、各種国際レジームに参加し、国内の輸出管理体制もしっかりしている地域です。したがってキャッチオール規制では輸出令別表第3の地域は対象外としています。
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
用途要件
用途要件は客観要件の中の一つです。
客観要件は用途要件と需要者要件があります。
用途要件は、輸出する貨物や提供する技術の用途が問題ないかどうかを判定することです。
後ほど出てきます需要者要件は、輸出する貨物や提供する技術を使う者(需要者)は問題ないかを判定することです。
用途要件は下記の2つの観点から判定します。
- 大量破壊兵器等の開発、製造、使用、貯蔵、又はおそれ省令別表に掲げる行為に用いられるか
- 仕向先が輸出令別表第3の2に掲げる地域であって、通常兵器の開発、製造又は使用のために用いられるか
1に該当するようであれば大量破壊兵器キャッチオール、2に該当するようであれば通常兵器キャッチオールと判定できます。

通常兵器の開発、製造、使用のために用いられる場合は、仕向先が輸出令別表第3の2の地域(国連武器禁輸国)に限定されています。
おそれ省令は、『輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令』のことです。別表の文言が長いのでキーワードのみ挙げます。
核燃料物質等の開発、原子炉等の開発、重水の製造、核燃料物質の加工・再処理、軍事機関が行うこと(化学物質の開発・製造、微生物・毒素の開発等、ロケット・無人航空機の開発等、宇宙の研究)
別表第3の2の地域は国連武器禁輸国となっており下記の地域になります。
アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン
需要者要件
用途要件に該当しない場合は、需要者要件を満たすか否かを判断します。
需要者要件では需要者が下記に該当するかを確認します。
- 大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵を行う(過去に行った)か
- 外国ユーザーリストに該当するか
これらに該当しない場合は、輸出許可が不要です。
外国ユーザーリストは、大量破壊兵器や通常兵器への流用の可能性が高い企業等が国別にリストアップされたものになります。細部はこちらから確認ください。
大量破壊兵器等の開発等に使用されないことが明らか
需要者要件に該当した場合は、大量破壊兵器等の開発等に使用されないことが明らかか否かを確認します。この際、明らかガイドラインに沿って確認します。
今回は『キャッチオール規制』について解説しました。複雑ですが、試験でもよく問われるので、しっかり理解しましょう。
なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は
>>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)
をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント