【徹底解説】技術提供の規制(安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策)

安全保障輸出管理実務能力認定試験
今回の記事は次のような方におすすめです。

  • 安全保障輸出管理実務能力認定試験の試験勉強中の方
  • 輸出管理の実務に携わっておられる方などで輸出管理の概要を知りたい方
  • 今回は『技術提供の規制』について紹介します。輸出時は貨物の輸出規制と同様に技術についても規制があります。

    貨物と違い実物がないデジタルデータなども規制の対象となりますので見落としがちなものになります。

    規制の対象となる品目や仕向先地域の規制については貨物の輸出規制とほぼ同じですので、貨物の輸出規制について理解している方は比較的理解しやすいと思います。

    ただし、技術については、形態(電子データ、紙媒体など)や技術の渡し方(誰が、どこで)のケースによって許可が必要な場合と必要でない場合がありますので、その辺りが厄介なところです。やや複雑な内容ですが、わかりやすくケースごとに解説していきたいと思いますので最後まで読んでいただけますと幸いです。

    本サイトでは他にも技術提供の規制に関連の深い記事を発信しています。合わせてご覧いただけますとより一層理解が深まると思いますので、ぜひご覧下さい。→ 『貨物の規制』『国際レジームと国内法

    技術提供の規制の法的根拠

    技術提供の規制の法的根拠は、外為法25条1項(役務取引許可)です。下記が条文です。

    (役務取引等)
    第二十五条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

    条文はやや長めの文章になっており、読みにくいです。読みやすいように処理します。

    (役務取引等)
    第二十五条 
    
    特定技術を特定国において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者
    
    又は
    
    特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者
    
    は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない

    処理すると非常に読みやすくなったのではないでしょうか。経済産業大臣に許可が必要な二つのケースが浮き出てきたと思います。

    一つ目が『特定技術を特定国において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者』

    二つ目が『特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者』

    です。いずれかに該当する者は許可が必要ということです。

    これらの2つのケースが具体的にどのような場合なのかは、のちほど説明します。

    技術提供の規制の全体像

    技術提供の規制の全体像は、貨物の輸出規制の全体像とほぼ同じです。貨物は輸出令(輸出貿易管理令)で規制されますが、技術は外為令(外国為替令)で規制されます。

    規制される分野は貨物、技術共に大体同じ(一部異なるところがあります。)であり、物か、その物に関連する技術かの違いになります。

    規制の種類としては、『リスト規制』、『キャッチオール規制』になります。

    リスト規制では機微性の高い技術が対象となっており、キャッチオール規制は比較的機微性が低い技術が対象です。

    リスト規制とキャッチオール規制のいずれに該当しない技術は輸出許可は不要になります。

    リスト規制に関しては、国際的な輸出管理の枠組みである国際レジームで規制された品目・技術を規制しています。大量破壊兵器等の製造につながる可能性が高いものとして各国が協力して輸出規制している品目・技術であり、規制の対象となる地域は全地域となっています。

    キャッチオール規制は、日本独自に設定した品目・技術の規制の枠組みであり、大量破壊兵器などの製造につながる恐れがある品目・技術を規制しています。

    規制の対象となる技術

    技術の定義

    具体的な技術に入る前に『技術』の定義を明確にしておきましょう。地味ですが極めて重要です。

    用語の定義は役務通達で規定されています。

    技術とは、貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報をいう。この情報は、技術データ又は技術支援の形態により提供される。
    
    設計とは、設計研究、設計解析、設計概念、プロトタイプの製作及び試験、パイロット生産計画、設計データ、設計データを製品に変化させる過程、外観設計、総合設計、レイアウト等の一連の製造過程の前段階のすべての段階をいう。
    
    製造とは、建設、生産エンジニアリング、製品化、統合、組立て(アセンブリ)、検査、試験、品質保証等のすべての製造工程をいう。
    
    使用とは、操作、据付(現地据付を含む。)、保守(点検)、修理、オーバーホール、分解修理をいう。
    
    技術データとは、文書又はディスク、テープ、ROM等の媒体若しくは装置に記録されたものであって、青写真、設計図、線図、モデル、数式、設計仕様書、マニュアル、指示書等の形態をとるもの又はプログラムをいう。
    
    技術支援とは、技術指導、技能訓練、作業知識の提供、コンサルティングサービスその他の形態をとる。また、技術支援には技術データの提供も含まれる。

    一番上が技術の定義になります。技術の定義の中に、設計、製造、使用、技術データ、技術支援というワードが出てきますので、それぞれ定義も合わせて記載しています。

    読んでみると、技術とは貨物の『設計、製造、使用』までの全ての段階における情報であり、始まりは設計研究や設計概念の段階から、終わりは分解修理、オーバーホールまでとなっています。

    つまり、貨物が設計された段階から壊れて使用できなくなるまでに関わる全ての情報ということになります。

    したがって、『技術』は貨物に関わる全ての情報という理解で大方、良いと思います。

    次に技術情報の形態ですが、技術データ又は技術支援となっており、定義を確認してみると、デジタルデータを保存したあらゆるメモリ、紙面に記載した技術情報、言葉や実技で伝える技術情報となっているので、あらゆる形態の提供方法が技術の提供に該当するということになります。

    規制の対象となる技術

    輸出規制の対象となる技術は、リスト規制の技術とキャッチオール規制の技術です。

    リスト規制の技術は、外為令別表の1項〜15項であり、輸出令別表第1の1〜15項の品目に関連する技術(一部、輸出令別表第1に該当しない貨物の関連技術が規制される場合がある。)になります。

    下の表が、輸出令別表第1の1〜15項の具体的な品目の抜粋です。詳細な記載内容は条文を確認してください。【輸出令の条文はこちら

    キャッチオール規制の対象となる技術は、輸出令別表第1の16項の関連技術になります。下が輸出令別表第1の16項の条文です。

    輸出令別表第1の16項

    輸出令別表第1の16項に該当する貨物は以下の通りです。

    ”関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)別表第二五類から第四〇類まで、第五四類から第五九類まで、第六三類、第六八類から第九三類まで又は第九五類に該当する貨物(一から一五までの項の中欄に掲げるものを除く。)”

    関税定率法上、該当する貨物を列挙すると話が脱線するので記載は割愛しますが、確認したい方はこちらからどうぞ。

    規制の対象となる地域

    リスト規制の対象となる地域は全地域となります。

    一方で、キャッチオール規制の対象となる地域は、『輸出令別表第3の地域を除く全地域』としています。

    輸出令別表第3の地域はホワイト国と言われる国群でありまして、全ての国際レジームに参加し、国内の法整備もしっかり実施されていると認められた国になります。

    輸出令別表第3の地域

    アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国

    規制の対象となるケース

    外為令25条の1項に『特定技術を特定国において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者』 又は 『特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者』の二つの経済産業大臣の許可が必要なケースが規定されています。

    具体的にどのようなケースが該当するかを解説していきます。

    やや複雑ですが試験で問われやすいところとなっていますのでしっかり理解してください。

    『居住者』と『非居住者』の定義

    前提として抑えておく必要があるのが『居住者』と『非居住者』の定義です。ここの理解がないと、これから説明する2つのケースが全く理解できませんので、まずは定義を説明します。

    根拠は財務省の通達『外国為替法令の解釈及び運用について』です。

    居住者と非居住者となり得る者は、日本人だけに限らず、外国人と法人も対象になります。

    日本人については、日本に居住する者はもちろんですが、外国の大使館などで勤務する日本人も居住者として扱われます。また、外国の事務所での勤務で外国に滞在する者は滞在期間にかかわらず非居住者となります。勤務以外の滞在は2年以上の滞在で非居住者となりますので、滞在の目的がキーになります。また非居住者は日本に戻ってきても滞在期間が6ヶ月未満の場合は非居住者として扱われるので、日本に戻ったからといってすぐには居住者とならない場合があります。

    外国人については、日本にある事務所で勤務している場合は、居住している期間にかかわらず、居住者扱いになります。日本に入国後6ヶ月経過すると居住者扱いとなりますので、日本人の場合と同様に6ヶ月という期間は一つの基準となる期間です。外国の公務員や国連の職員である場合は、日本での滞在期間等にかかわらず非居住者となります。

    法人等については、主に会社ですが、外国の会社でも日本支店などは居住者扱いです。また、外国にある日本大使館などの在外公館は居住者扱いです。一方で、日本の会社であっても外国支店などは非居住者扱いになります。日本の会社でも所在地によって非居住者になるので注意が必要です。

    規制の対象となるケース

    技術の提供における規制の対象となるケースについて経済産業省の安全保障貿易管理ガイダンスに分かりやすい図解がありましたので、それを基に解説します。

    上段のケース『外国において提供することを目的とする取引』についてです。このケースは、技術を提供する場所が外国であった場合は、居住者であろうが非居住者であろうが全て許可が必要というケースです。外為令25条の1項に『特定技術を特定国において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者』のケースになります。このケースは、提供する場所がポイントとなります。

    中段のケース『居住者から非居住者に提供することを目的とする取引』についてです。このケースは外為令25条1項の『特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者』のケースになりまして、技術を誰から誰に提供するかがポイントとなります。場所が日本国内であっても、居住者から非居住者に提供する場合は許可が必要です。

    上段と中段をまとめますと、特定国である外国であれば、特定技術を提供する人が居住者であろうとなかろうと許可が必要です。そして、日本国内における技術の提供の場合は、居住者から非居住者に提供する場合のみが規制の対象となっており許可が必要となります。

    下段のケース『USBメモリ等を持ち出す行為、電子データを外国へ送信する行為』についてです。技術情報の形態は、紙媒体だけではなくデジタルデータの形態も含まれるため、電子メール等での提供も例外なく規制の対象になっています。


    今回は『技術提供の規制』について解説しました。重要かつ基本の分野ですのでしっかり理解しましょう。

    なお、本サイトでは他にも安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)の試験範囲の解説記事を掲載していますのでご確認したい方は

    >>【完全版】安全保障輸出管理実務能力認定試験(STC Advanced)対策(試験概要と試験範囲全ての解説)

    をご覧ください。

    最後まで読んでいただきありがとうございました。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました