段々良くなってきたけどまだまだ課題は山積:『戦後日本の安全保障』を読んで

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管理人
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本選びの参考にしてください。

今回は『戦後日本の安全保障 日米同盟、憲法9条からNSCまで』(中公新書)千々和泰明著 を読みましたので好き勝手に感想を書いていきたいと思います。

日本がアメリカに敗戦してから現在の日本の安全保障体制が作り上げられるまでの歴史が細々と記述されておりとても勉強になりました。日本としての意思だけでなく、外因的な事象に翻弄されながら形作られてきた現在の安全保障、そこには過去の苦肉の策の形跡も残っているところもありとても興味深かったです。

日本は中国、北朝鮮、ロシアに隣接しており、それぞれの国の脅威が目に見えて明らかになってきている現在。過去の経緯を一度白紙にして、しっかり現状を見て、脅威に対応できる安全保障体制を作っていくことが大事だと感じました。

以下、読書感想になります。長くなりますが興味がある方はご覧ください。

読書感想

日米安保条約について

日本国内に米軍基地を置く代わりに、米国が日本を防衛すると言うのが日米安保条約。日本人は日米安保条約を日本の視点から捉えるのが普通だが、米国の視点では事情が違う。米国が何を考えているか、どのような体制を築き上げようとしているかをベースに日米安保条約を見るとその歴史を理解することができる。

米国は対共産圏体制を常に見据えており、第二次世界大戦後はソ連が主な対象であった。戦前は日本が日中戦争、日清戦争に勝利し、台湾、中国の一部、東南アジアまで勢力を拡大し、極東地域を支配できていた。しかし第二次世界大戦で日本がアメリカに敗れると日本による統治は崩壊し極東は再び不安定な状態に陥ってしまった。そこでアメリカは極東を再び安定化させるために極東地域にコミットメントする。

アメリカは極東にもNATOと同じような体制を築き上げる構想を持っていた。日本、台湾、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、韓国などによる多国間軍事同盟体制だ。だが複数国の反対により成立せず、アメリカがハブとなり、それぞれの国との間での二国間軍事同盟と言う形に落ち着くことになる。台湾は米国が米中関係改善を重視したため同盟関係には至らなかった。

そのような体制の中での日米安保条約ということだ。日米同盟でアメリカが日本に基地を置きたかった理由は、米国が極東地域にコミットするための拠点を構築したかったからだった。それは韓国も同じことが言える。実際に朝鮮戦争においては米国は日本を拠点として朝鮮半島に戦力を投入できた。米国が日本に米軍基地を置くことの意義は大きい。

日本は第二次世界大戦で2発の原子爆弾を投下され、無条件降伏した。米国は極東地域を支配したいという意図があったために無条件降伏に至るまでに日本を痛めつけたわけだ。日本に軍隊の保持を禁じ、日本の占領地も全て返還された。

今の極東環境は米国が作り上げたものと言って良いだろう。朝鮮半島情勢、台湾情勢等々、極東地域には安全保障上の問題が処処あるが、日本が統治し続けていたならば今のようになったであろうか。戦前は朝鮮半島、台湾、満州、中国の東部等は日本の支配地域であり、この体制が維持できていれば現在のような安全保障上の問題は起こり得なかったはずである。中国が現在米国にとって最も脅威になっているが、そのようなことにもならなかったであろう。このような極東の秩序を壊したであるから、米国は極東の安定に責任があるのではないか。

欧米諸国は大航海時代以来、世界中に植民地を広げていった。非常に欲深い民族であり、他国に土足で上がっていき、資源や資産を奪い、自国の利益にしていく。このような思想ややり方が近代の不安定な国際情勢の根源ではないか。日本は中国、東南アジアに戦前侵攻したと非難されることがあるが、日本はアジア地域を欧米列強の植民地支配から守るためにアジア民族による大東亜共栄圏を築き上げようとしたわけだ。実際に、日本が侵攻した東南アジア、中国では欧米諸国を追払い、占領しその国に教育やインフラの整備を施し、自立できるような体制を構築していた。日本は決してこれらの国を欧米諸国のように植民地とすることはなかったわけだ。

ロシアがウクライナに軍事侵攻し、世界中、特に欧米諸国から強い非難を浴びている。当然、軍事侵攻はあってはならないことである。しかし、過去のロシアと欧州の歴史を見ると、ロシアはフランス、ナチスドイツから一方的に侵略を受けとてつもない犠牲を出している。ロシアから見れば歴史上欧州は常に恐怖の対象なのである。ロシアに配慮することなくNATO勢力を広げていく欧米のやり方。ロシアとの過去の歴史を振り返ってもそこまでロシアを非難する権利が欧米諸国にあるのだろうか、疑問でならない。国家間の対立と歴史は切り離せないものである。国家間で本当に関係を改善し、協力関係を築きたいと思うのならば、互いの歴史観を認め合い寄り添う必要がある。しかし現実問題そんな簡単にはいかないということだろう。

太平洋まで勢力の拡大を目論む中国。最近は軍艦、戦闘機などの軍隊を隣国の領域近傍で活動させ脅しをかけている。そのような中国も国民の経済格差は米国以上、出生率も日本以下、若年層失業率は約20%と国内はとんでもない状況になっている。国民の不満が爆発するのは時間の問題だろう。政治に関わる者は国民のことを第一に思い政治を行うべきだと思うが、中国ではそうではないようで権力者個人の富、地位、名誉そのようなものが第一になっているのだろう。軍事力増強、隣国への脅迫など、そのようなことは止めて国民の幸せのために予算や労力を割くべきではないのか。

世界のどこかが自国の富や利益を追求している限り、世界の平和は訪れることはないだろう。奪おうとする者がいれば当然守ろうとするからである。人は何千年経っても愚かな生き物だと思う。「足るを知る」すなわち、現状で十分に満足していることを理解して、余分な富や利益を求めず、質素倹約し、周りに優しさを持って触れ合うような人を増やしていく必要がある。そのためには教育が不可欠である。世界中の国が一つの理念の元に教育を作り上げ、各国がそれを実行する。そのようなことが始まらない限り、世界に平和が訪れることはないだろう。

憲法9条について

昔から何かと話題になり国会やニュースでも取り上げられる憲法9条の問題です。憲法の条文自体は戦後日本国憲法が出来てから全く変わっていませんが、時代の変化、安全保障環境の変化によって解釈が変わり、2015年の平和安全法制が成立して存立危機事態への対応が認められたことからそれまで個別的自衛権の行使に限定されていたものが、集団的自衛権の行使が限定的に容認されるに至った。

集団的自衛権の行使は限定容認ということなので条件を満たさないと行使ができない仕組みになっているが、例えば数年先にあり得ると言われる台湾有事において、日本が武力攻撃を受けていなくても米国が攻撃を受けた場合、様々な軍事活動ができるということだと思います。

集団的自衛権が行使できるということは、戦争の抑止という点からも非常に効果があると思いました。中国が台湾侵攻で米国と武力衝突した場合、自ずと日本とも対峙することになるので中国からすれば好ましくない状況ということです。

日本が武力攻撃を受けて武力攻撃事態を認定して個別的自衛権を発動した場合、行使できるのは必要最小限の範囲の武力行使ということで、例えば一部の領土を占領された場合はそれを取り返しにいくのは自衛のための行為でそのために必要な戦力を使用するのは大丈夫だと思います。一方で疑問なのは存立危機事態を認定して集団的自衛権を行使した場合の必要最小限の武力行使とは何なのでしょう。台湾有事だと台湾内、台湾近傍で中国と戦闘している米軍に参戦するということだと思いますが、どこまでやって良いのでしょうか。最悪、台湾に攻撃してきた中国軍と自衛隊の徹底抗戦ということになるのではないでしょうか。そうなると台湾有事は日本と中国の戦争といっても差し支えない状態になってしまうと思いました。

中国と全面戦争になったら日本中の自衛隊の基地や米軍基地にミサイルが中国本土から飛んでくると思いますし、さらに言えば、装備品作っている工場とかもミサイルの標的になる可能性はあると思います。日本もイージス艦とかペトリオットの迎撃ミサイルを持っていますが、中国のミサイル数が圧倒的に多いので、すぐに弾切れしてそのあとはやられ放題です。そういう意味で最近決まった反撃能力というのは非常に価値があると評価しています。

ウクライナとロシアの戦争が始まってから実感しますが、守るだけは圧倒的に不利です。ロシアは自国の領土を全く荒らされず、ウクライナ国内はぐちゃぐちゃ。あまりにも可哀想です。ウクライナ国内に入ってきたロシア軍を撃退し続けてもキリがないです。ロシアに侵攻を断念させるための一番効果的な方法はロシア内への攻撃ではないでしょうか。

戦争への備えは最悪の事態を想定してやるべきだと思います。おこるかもしれない台湾有事、その最悪の事態は日本と中国の本格戦争。日本本土内がミサイル攻撃され反撃しようとすると核兵器を使うと脅される。そういう状況は現実に十分あり得る。だから反撃能力に加えて核兵器も保有すべきだと思います。核兵器があって初めて反撃能力が使用できるということではないでしょうか。日本はアメリカの核の傘に守られていると言われます。アメリカは日本のために核を本当に使用してくれると思いますか。絶対にしないと思います。なぜならアメリカが核兵器を使用するとアメリカ本土が核兵器によって攻撃されることになるからです。

核がない世界は幻想でしかないです。一度この世に現れたものを無しにすることなどできません。だから核がない世界ではなく、”核を使われない世界”を目指すべきだと思います。日本を核の惨禍から守るため早急に核兵器を保有すべきだと思う。日本を現実の問題として守るために必要な戦力を保有する時に毎回障害になるこの憲法9条は、さっさと改正した方が良いのではないでしょうか。

防衛力整備について

かつての日本における防衛力整備は五カ年計画に基づいて行われていた。防衛庁が日本にとっての脅威を見積もりその脅威に対抗するために必要な防衛力を整備する計画がこの五カ年計画になる。当時の日本にとっての一番の脅威は旧ソ連であった。しかし冷戦終結によりソ連の脅威が一気に下がったことから、防衛力を増強していく理由を失うことになる。そこで新たに生まれたのが防衛大綱と基盤的防衛力構想である。基盤的防衛力構想とは、防衛力として必要な機能を維持していざというときに必要な防衛力を増強できるような最低限の防衛力のことである。特定の脅威を対象としたわけでなく、いかなる脅威に対しても対応しうる最低限のバランスの取れた防衛力といった感じであろうか。この基盤的防衛力構想により、ソ連の脅威が下がることに伴う日本の防衛力の低下にストップをかけた。ただこの基盤的防衛力構想は自衛隊の軍側からは受け入れられず、脅威への対抗に必要な防衛力が上乗せされていくことになる。そして現在は運用も考慮に入れた防衛力整備になってきており、様々な脅威に実効的に対応できる防衛力が構築できる仕組みになってきた。

最近NATOの防衛費の基準がGDPの2%ということで、日本も2%を基準として防衛費を計上するという数字ありきの結果になっている。そもそもこれは間違っており、今は日本の安全保障環境がとてもまずいので、かつて行われてたように脅威をしっかり見積もってそれに対抗するための防衛力を構築すべきだと思う。軍事に全くのど素人の政治家が防衛費増額に反対しているが、何の根拠を持って反対しているのか謎である。今の脅威に対抗するための防衛費を計上した場合とてもじゃないがGDPの2%ではとても足りないと思わざるを得ない。本当に2%で足りるのか、真剣に議論して適切な予算を投じて防衛力を整備しないと本当に日本を守れないのではないか。防衛力整備は戦争が始まってからでは手遅れで、平素から時間をかけて積み上げるものである。装備品は直ぐには開発できないし、作れない。もしできたとしてもそれを使いこなすようになるのに時間がかかる。だからしっかりを将来を予測して必要な防衛力を先行的に着手していく必要があるのではないか。

日米ガイドラインについて

ガイドラインは日米同盟の人と人との協力の要領を定めたものである。その中で最も重要なものが指揮をどうするかという規定である。日米ガイドラインでは指揮並列となっており、日米共同作戦において、米軍は米軍の司令官が、自衛隊は自衛隊の司令官が指揮をするというやり方である。米韓同盟では指揮は統一されており、米軍と韓国軍が共同作戦を行うときは米軍の司令官が米軍と韓国軍全てを束ねて一元的に指揮をする仕組みである。指揮は並列よりも単一の方が効果的だが、日米同盟は並列になっている。この理由は、日本の集団的自衛権は限定的に行使が認められており、仮に米軍の司令官の元で自衛隊の部隊が活動した場合、日本で認められている範囲を超えて自衛隊が行動する可能性があるからである。

米軍は極東全体のコントロールする上では、米軍の単一での指揮で自衛隊も韓国軍もコントロールできた方がやりやすいが、日本が上記のような理由から強く反対して今の形になっている。

日米同盟では指揮が並列になることのデメリットを補うために調整メカニズムを作ってそれぞれのレベルで調整ができる仕組みを作っているが、正直言って調整が多くなってスムーズな指揮ができないことは明確だろう。

戦争、戦場では起こった事象に対して素早く行動を決心することが重要だと思う。指揮を並列にすることで当然状況判断と決心が遅れてしまうわけで、不利な状況に陥ってしまうのではないか。法律が現場の軍隊の行動を大きく阻害する今の日本は本当に大丈夫だろうか。戦争では敗北することは絶対に回避しなければならない。日本も集団的自衛権の行使も国際標準レベルにして、米軍と単一の司令官の元で戦闘できるようにするべきではないか。なんでもありで攻撃してくる相手に対して、まだ攻撃してはダメとか、この行動は法律で認められていないとか、そんなことをいちいち戦場で考えていては戦える力を持っていても負けてしまう。早急に法律上の阻害要素を除外すべきではないでしょうか。

そして戦後最悪な安全保障環境、中国がいつ台湾に侵攻するかわからない状況を打開するためには、極東地域で米軍の司令官の指揮の元で、米軍、自衛隊、韓国軍、フィリピン軍、台湾軍、オーストラリア軍が連合して協力して戦える体制を作るべきではないか。これにはやはり日本が大きな阻害要素になっているのは間違いない。日本は平和貢献を本気で考えているのであれば、集団的自衛権の限定を解除し、ガイドラインの見直しを行わなければならない。

内閣安全保障機構について

2013年の第二次安倍政権時に国家安全保障会議が設立して以来、ニュースで国家安全保障会議という言葉をたまに聞くようになった。この国家安全保障会議は、4大臣会合、9大臣会合、緊急大臣会合の三種類あり、9大臣会合は国家安全保障会議以前の安全保障会議の受け継ぐものである。政策は内閣総理大臣が決めるのではなく、内閣の総意で決定されるものであるとのこと。各分野をそれぞれの省庁、大臣が所掌しており、一人の大臣が反対すれば政策は実行できないということになる。全会一致が必要というのが大原則になっている。

その上で、国家安全保障会議はあくまで審議の場としての位置付けであるが、関係する大臣のみを集めて審議するためスピード感が増し、内閣の意思決定までのスピードが上がっている。

国家安全保障会議の事務局が国家安全保障局NSSであり、安全保障の司令塔をに成っている部署で、そのトップである国家安全保障局長は以前からある内閣危機管理監と同格のランクです。内閣官房の中では内閣官房長官、内閣官房副長官に続くナンバー3のポストになる。

安全保障は各省庁に跨る課題であり、安全保障以外にも各省庁横断的な課題は今後増えていくように感じる。このとき全体を統括する司令塔的な組織は不可欠であり、それが国家安全保障局でその機能が最近どんどん高まってきているというのは喜ばしいことだと思う。


本サイトでは他にも気ままに読書感想を書いています。興味のある方は合わせてご覧ください。

>>現実味を増す台湾有事!日本が今やるべきことが全部分かります:『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』を読んで

>>バイオテクノロジーが作り出す未来がもうそこまで来ている!:『バイオものづくりへの挑戦』を読んで

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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